製造業未経験のMLエンジニアが調達業務を1日体験して考えたこと

こんにちは、2026年5月に入社し、AI for applicationチームにジョインしました村上です。

キャディ株式会社では、プロダクトが解くべき課題を正しく捉えるには現場業務への解像度が不可欠だという考えから、ドメイン知識をキャッチアップするための仕組みが社内に用意されています。その一つが「調達もくもくワーク」という体験型トレーニングです。

私自身、前職では製造業とは全く関係のない業界でMLエンジニアをしていました。そのため製造業のバックグラウンドはゼロです。 今回、ドメイン知識を身につける機会として上長にお勧めされ、「調達もくもくワーク」に参加しました。

この記事では、製造業未経験のMLエンジニアである筆者がこのワークに参加し、調達業務のペインを体験したうえで感じたことを書きます。

用語の整理

この記事で使う主要な製造業用語をまとめます。その他の用語は本文中で適宜補足します。

  • 調達: 自社製品に必要な部品や材料を外部から購入・手配する業務全般を指します。購買とほぼ同義ですが、サプライヤーの選定や価格交渉まで含む広い意味で使われます。
  • サプライヤー: 部品を製造・納品する外部の加工会社のことです。「協力会社」「外注先」とも呼ばれます。
  • バイヤー: 調達担当者のことです。サプライヤーに見積を依頼し、発注先を決定する側を指します。
  • 図面: 製造する部品の設計書です。形状・寸法・材質・表面処理などを記載した技術文書で、調達業務ではPDFや紙でやり取りされます。
  • 見積: サプライヤーが図面をもとに提示する価格・納期の回答です。複数社から見積を取ることを「相見積」と呼びます。
  • QCD: Quality(品質)・Cost(コスト)・Delivery(納期)の頭文字です。調達判断の際に考慮すべきパラメータです。
  • CADDi Quote: キャディが提供する製造業AI見積クラウドです。図面のアップロードから見積依頼・回答比較までをカバーします。
  • CADDi Drawer: キャディが提供する製造業データ活用クラウドです。図面からの情報の構造化や図面の形状認識が強みの一つになっており、類似した図面の検索が可能になっています。

調達業務の概要

調達担当者の仕事は、設計部門から受け取った図面をもとに外部のサプライヤーに部品の製造を依頼し、QCDを守って納品してもらうことです。大まかな流れは以下のとおりです。

  1. 図面受領・確認: 設計部門から部品表と図面を受け取る。
  2. カテゴリ分け: 図面を見て、切削・板金・購入品などに仕分ける(サプライヤーは加工種別ごとに専門が分かれているため、ここでの振り分けが必要)。
  3. 見積先選定: サプライヤーリストから対応可能なサプライヤーを選ぶ。過去の発注実績と突合し、新規品かリピート品かを判定して加味する必要がある。
  4. 見積依頼の送付: 見積依頼書を作成し、図面を添付してメールで送付する。
  5. 見積回答の査定: サプライヤーからの回答を比較し、QCD観点で発注先を決める。
  6. 発注: 発注書を作成してサプライヤーに送る

調達もくもくワークとは

調達もくもくワークは、CADDi Quoteのユーザーである調達担当者の業務を、サンプルの図面や発注実績などを使って実際に手を動かしながら追体験するトレーニングです。調達業務の一部についてまずCADDi Quoteなし(手作業)で苦しんでから、CADDi Quoteありでやり直します。ビフォー・アフターを自分の手で体験する設計です。ワークでは上記フローのうち、見積先選定・見積依頼の送付・見積回答の査定を体験しました。調達業務にどのようなペインがあり、それをCADDi Quoteがどう解決しているのかを肌で知ることが目的です。実際にはCADDi Quoteなしで一通り体験した後にCADDi Quoteを体験したのですが、読みやすさのため各フェーズの中で両方の感想を書きます。

調達もくもくワークの様子。 硬い雰囲気に見えますが、実際には気軽に質問したり手作業の煩雑さに愚痴を言いながら進めていました。

ワークでの体験

1.見積先の選定

ワークでは「どのような部品をどれだけいつまでに調達する必要がある」というような依頼が調達部門にきている状態からスタートします。それぞれの部品をどこのサプライヤーから調達するかを考える必要があります。どのサプライヤーがどんな加工に対応でき、過去にどんな品質・納期実績があったかというような情報が体系的にまとまっていることは稀です。結果として現場ではベテランの経験則に依存していることもよくあるようです。また、過去にいくらの金額で発注したかという情報はあったとしても、発注には至らなかった見積結果についてまとまっていることはほとんどないようでした。

研修で使用したダミーの取引実績とサプライヤー情報。このような情報がまとまっていること自体ほとんどないそうです。

手作業

手作業ワークでは過去の発注履歴スプレッドシートが用意されていたのでそれを頼りに選定しました。しかし注文実績があっても過去の品質や価格の妥当性はわかりませんでした。経験則がないこともあり自分は見積をもらってから考えれば良いかとなり、多めのサプライヤーに見積を出すことにしました。

今回はスプレッドシートに過去の情報がまとまっていたのでまだマシでしたが、実際にはどこにもまとまっていないことも多いとのことで、効率的な調達先の選定はかなり難しそうだと感じました。適切でないサプライヤーへの見積依頼はサプライヤー側への負担になりますし、見積に対する発注比率も下がることで、信頼関係を損ねることにもなります。

CADDi Quote

CADDi Quoteを使ったワークでは過去実績の比較が非常にやりやすくなっていました。過去の発注履歴や図面の情報をCADDiに貯めてもらっていることが前提とはなっていますが、図面IDと必要な加工情報を渡せば過去の発注実績を元にサプライヤーの候補が得られます。発注価格・見積履歴・過去のトラブルなど、見積依頼先を決めるために必要な情報がまとまっていました。

少しだけ過去と異なるような部品を発注する場合、図面IDだけを見ていると新規品であるため発注先の選定を機械的にしづらいという問題があります。しかしCADDi Quoteは今回発注する図面だけではなく、その図面に類似した図面に対する発注実績も加味してくれます。この機能は図面の形状解析が高精度でできるCADDiならではの強みです。

2.見積依頼

見積先を決めた後、各サプライヤーにメールで見積依頼を送ります。図面をPDFとしてメールに添付して送ることも多いようです。サプライヤーごとに見積依頼書の中身や宛先名を変更する必要がありますし、依頼する図面が違うので正しい図面をメールに添付する必要があります。作業自体は単純で機械的に進めていけば良いのですが、ミスを誘発する要素が多いです。

手作業

ワークでは見積先として選定した宛先(実際には研修を担当していただいた先輩のメールアドレス)に見積依頼を送る作業を行いました。各サプライヤーごとに見積依頼書の作成を行い、図面を添付してメールを送るだけの作業です。単純に見える作業ですが実際には時間とストレスがかなりかかります。他社宛の依頼書を送ったり、図面を添付し忘れたりする人が当然続出しました。自分は見積先を多く選定してしまっていたのもあり、結局途中から作業が嫌になり見積依頼先をこっそり減らしてしまいました。ワークでは実務と比べると少量の部品やサプライヤーでの体験だったのですが、本当に真面目にミスなくやろうと思うと1時間以上は平気でかかりそうでした。機械的な作業に感じられ個人的には一番の苦痛でした。

見積書と大量の図面添付の例。一つ一つ図番を確認しながら添付していくのはかなり注意力を消費します。

CADDi Quote

CADDi Quoteを使ったワークでは劇的に楽になっていました。上流工程である見積先選定の結果から数クリックするだけで見積依頼書の作成からメールの送信まで自動で行ってくれました。1時間はかかるであろう作業が数秒になるのには流石に感動しました。

3.見積結果の査定

見積依頼を出した後、それぞれのサプライヤーから見積結果が返ってくるのを待ちます。見積結果が出揃ってきたらその結果を取りまとめてどこに発注を出すかを決めることになります。その際にはQCD(品質、コスト、納期)全体を加味して発注先を決める必要があります。

見積にかかる時間はサプライヤーによって当然異なるので見落としがないように気を付ける必要があります。また、一つのプロジェクトの部品の調達だけをしていれば良いわけではないため、見積結果を待っている間には他の部品の調達も並行して進めなければなりません。待ち時間がある分、情報の整理や管理が必要とされるフェーズです。

手作業

ワークでは時間が決まっているので見積結果は用意されている状態でこのフェーズが始まりました。見積結果を見ていると各社フォーマットが異なっており、比較可能な状態に整理すること自体にまず時間がかかりました。

見積結果の例。カラム名が異なり機械的に統合できなかったり、条件付きでの見積結果だったりと単純に比較することが難しいです。

見積金額には条件がついていることもあり、特定の加工をする部分は除いての金額であったり、見積依頼をした部品全てをまとめて一括発注することを条件としたケースでの金額が記載されていることもあり、比較が大変でした。見積結果をスプレッドシートにまとめた後も、その判断は難しいです。結局私はシンプルに加工費を見て一番安い組み合わせを探してそこに発注するという判断をしました。実際には定性的な要素も多く絡み、トラブル対応が柔軟なサプライヤーであるかどうかや、工場の位置が近く輸送に関わる問題があるかどうかなど、複合的に考える必要があるとのことでした。

CADDi Quote

CADDi Quoteから送られた見積依頼のメールには専用のフォームが用意されており、サプライヤーはそこから見積結果を返答します。その結果はCADDi Quoteに自動で連携されます。どこに見積依頼を送ったのか、どこから結果が返ってきてどこがまだなのか、見積結果はいくらなのか。こうした情報が一元的に管理されていきます。

金額による比較は当然できますし、サプライヤーごとの注意事項などもまとめておき表示できるため、定性的な評価もある程度できるようです。現状ではサプライヤー側からの条件付きの見積結果については対応できる幅に限度がありそうなため、CADDi Quoteだけで業務を完全に代替できるわけではありません。しかし、人手でやっていた面倒な作業部分をサポートして楽にするという形での貢献になっていそうでした。

体験してどう変わったか

AIやシステムが引き受けるべき仕事

今回のワークでは、調達業務における「機械的作業」と「判断業務」の混在が鮮明になりました。頻繁な情報の紐付けや転記、照合といった定型作業は、画面やファイルを行き来しながらミスなく行う必要があり、想像以上に大きな負荷となります。本来、システムが担うべきなのはこうした作業です。調達担当者が真に時間を割くべきなのは、新規サプライヤーの開拓やコスト削減、サプライチェーン全体のリスク戦略といった、人の判断力や創造性が求められる本質的な仕事です。しかし、定型作業に忙殺されている限り、そこに時間は割けません。

MLエンジニアとしての視点では、複雑なアルゴリズムによる解決策に目が行きがちですが、現場ではデータの紐付け自体が手作業で行われており、それが最大のボトルネックになっています。ロジックの精度以前に、データを構造化して蓄積し、活用できる状態を作ることが最優先でした。CADDi Quoteは、こうした泥臭い紐付け作業をシステム化することで、人が本来の業務に集中できる環境を提供しています。

さらに、CADDi Quoteには蓄積されたデータを分析し、調達をより効率化するインサイトを導き出す機能も備わっています。売上の50%以上を占めることもある調達・購買において、これまでベテランの勘に頼っていた決定を、整理されたデータに基づいて行えるようになります。データの蓄積と分析によって、単なる作業効率化を超えた、より戦略的で価値のある調達の実現を目指しています。

製造業全体の最適化の難しさ

調達金額の最適化について考えを深めていくと、次第に「サプライヤー(加工会社)側の大変さ」も気になり始めました。サプライヤーは、基本的に見積依頼に無料で対応します。安すぎる金額を提示すれば受注できても赤字になり、逆に高すぎれば発注をもらえず、見積に費やした工数がタダ働きになってしまいます。図面だけでは条件が曖昧な場合、発注側とのすり合わせにかかるコミュニケーションコストも無視できません。調達業務の負担はバイヤー側だけのものではなく、製造業全体の効率化を考えるには、多数のステークホルダーの目線に立つ必要があると痛感しました。

また、「片側だけの効率化が、必ずしも全体最適につながらない可能性」も感じています。CADDi Quoteによって調達側の作業が楽になり、扱える案件数が増えれば、バイヤーがサプライヤーに送る見積依頼の総数も増えるかもしれません。もちろんシステムの精度が上がれば的外れな依頼は減るはずですが、バイヤー側の処理能力が爆発的に向上することで、結果的にサプライヤー側の対応負荷が変わらないどころか、むしろ増えてしまうというパラドックスも起き得ます。

これは確信のある主張というよりも、ワークで感じた問いです。調達プラットフォームを考えるとき、バイヤー側の効率化だけでなく、サプライヤー側にも見積対応の効率化や受注機会の可視化といった価値をセットで提供していく視点が必要なのだろうと感じました。製造業全体のエコシステムを良くするのは、一方向の最適化では済まない難しい問題です。

「モノづくり産業のポテンシャルを解放する」という大きなミッションを達成するには、このようなステークホルダーが多く複雑な問題も避けては通れません。実際CADDi Quoteもこの大きな問題を解決するための変革が現在進行形で進んでいます。1日の体験ワークでこうした問いが自然に浮かんできたこと自体が、このワークショップの設計のうまさだと感じました。

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ミクロに実際の現場の問題に向き合いながらも、長期的にはマクロに製造業全体の効率改善を目指していける環境です。 製造業が未経験であっても、このようなワークを通じてドメイン理解を深めることができます。 このような立ち位置で働けることにワクワクを感じる方がいれば、製造業未経験でもぜひお話をしましょう!

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