製造業とソフトウェアの品質 Part 1/2

はじめに

こんにちは、小橋です。前回はシリーズBの調達後のキャディの進化について書かせて頂きました。その中で開発組織のアジリティ向上やイノベーション推進のためのプラットフォームチームに関して触れましたが、今回は新たな組織横断課題についてお話出来ればと思います。

品質です。

ここ数年で沢山の用語や職種が飛び交うようになりましたね。QAとかQCとかSETとか。クラウドやインターネットの浸透でSaaS等の継続的な価値を提供するビジネスモデルが可能になったからこそ、ソフトウェアの品質保証組織も進化している証拠かもしれません。品質の概念と長年向き合ってきたモノづくり産業のポテンシャルを解放するキャディとして、物理のモノづくりとソフトウェアを比較しようと思います。

物理的なモノの品質

オーダーメイドの洋服を購入したりする時に、皆さん「品質」をどう評価していますか?オプションも色々ありますし、メーカーによって生地、機能性、見た目も違います。意識しやすい品質もありますが、使ってみないと分からない機能性もあります。

その洋服を高品質で低価格ですばやくお届け出来る事が理想であり、QCD (Quality, Cost, Delivery) という表現も聞いたことがあるかもしれません。品質良く製造する事も重要ですが、この洋服は消費者の自宅に配達されて初めて価値になります。配送中に汚れると製造された商品の品質は変わらなくても消費者が感じる品質は下がります。カスタマーサクセスとかユーザエクスペリエンスとか、色々な用語がありますが物理的なモノを提供する事業においては最終的に納品して初めて顧客価値に繋がるため、QCDの概念には製造から梱包、輸送まで含まれます。

キャディは産業装置業界を含む多品種少量から中量産のモノづくりをしております。部品点数が多く、加工の種類も多い中で、調達の課題を解決しています。ペットボトルを作る装置から半導体設備まで幅広く調達支援をさせていただいています。大半の部品が通販やカタログで購入出来るものではなく特注品です。設計図があり部品ごとに寸法や表面処理が違います。キャディでは各部品が用途に適した品質で作られることを心がけており、そのために社内で製造業のドメイン知見を蓄積しています。

この品質というものをキャディで担保するために検査拠点も関西と関東に設けており、お客様が求めている品質に製品が出来上がったか確認しているわけですが、これが非常に大きなチャレンジです。

製造業の「検査」工程

普段出荷直前に設計図通りに製造されたかを確認する検査工程が設けられます。産業や会社によって検査のしかたは違いますが、なんらか「ユーザに届く前の最後の確認」をする認識はどこも共通でしょう。このステップで「穴の直径が間違っている」とか、「表面にキズがある」とか、「塗装が剥がれている」等と、色々アラートが上がってきます。

面白いことに穴の直径が違っても、キズが付いていても、必ずしもダメな訳ではない。ユーザが穴の直径を気にしないなら良いわけです。誰の目にも付かずキズだらけでも良い部品なら、キズがあっても良いです。ソフトウェアの世界でもアイコンの位置が数ピクセルズレていても、本番へのリリースを続行する事もある。全てコンテキスト次第でややこしいですね。肉眼でキズが無くても顕微鏡で見ればいくらでもキズは見つかります。あらゆる品質の基準に強弱を付けて製造の現場に伝える事が重要で、そのための標準として日本国内ではJIS規格が設けられています。

家具の金具を作りたいのにジェットエンジンと同じ過剰な品質を求めると価格に大きな影響が出てしまう。だからといって、「キズだらけに作ってOK」とか「寸法は適当でOK」という設計者はいないでしょう。大体設計部門は品質を良くしたく、購買部門は購入価格を抑えたいため、機能要件と価格インパクトを上手くバランスするのが製造業の難しさともいえるでしょう。

そのせめぎ合いで部品が調達される状況下で検査では合否判断が求められます。検査というコンテキストだけでは判断しきれなく担当者に確認が必要になる場面も少なくないです。ソフトウェアの世界でもリリース直前に不具合に気付き、リリース続行判断をプロダクトマネージャに求める場面に似ています。一定不確実性が検査工程まで残ってしまうのは仕方がないですが、それをラーニングとして次回に活かし、上流にフィードバック出来る事が最終的な姿かもしれません。

出荷直前の検査工程でミスに気が付かずにお客様に迷惑かけるよりはマシですが、根本的には何も解決していない。不良の検出単体はその場の事実確認だけであり、継続的な改善に向かうには更に原因追跡や再発防止対策が必要。何もしないで再発のリスクを飲み込むのも全然ありですが、その共通認識を随時アップデートするきっかけとなるのが検査のあるべき姿なのではないでしょうか。

品質の継続的改善

結局正解は無いし、完全に白黒の世界は作れないので如何にユーザや業界に合わせ続けられるかが肝になります。品質は一回確認して「完了」するものではなくて、何が求められているのかを把握した上で、継続的にそれをお届け出来るようにコミットする事です。ミスの無い世界は存在しないですし、不確実性がゼロの世界も存在しないですが、トレードオフを常に意識して改善する事は出来ます。

求められている基準を定期的にアップデートして、それに向けて改善し続ける事を言語化したのが国際基準である ISO9001 です。こちらは「品質バッチリ!」の認定ではなく、「継続的にPDCAを回す」体制と実態があり、それにコミットする経営からの意思表明です。キャディでもISO9001認定を受けており、QMS (Quality Management System)の構築と継続的な改善に取り組んでいます。検査の結果をフィードバックのメカニズムとして活用する事を記述させて頂いています。

加工品の品質の継続改善と同時に、テクノロジー本部ではソフトウェアの継続的な改善にも取り組んでおります。物理的な加工品とパソコンの中にしか存在しないソフトウェアとで基質は違いますが、似ているところも複数あります。キャディの受発注事業部とは全く別ですがSaaSの事業部ではISO27001認定を受けており、ISMS (Information security management system)の構築を運用をしております。この世に100%の保証は無いものの、極力お客様に寄り添っていき、変化し続ける要求に対して適切なプロダクトを提供し続けるための意思表明とも言えます。

今回ご紹介させていただいた物理の品質を踏まえて、次回 Part 2 ではセキュリティに限らず物理のモノづくりとソフトウェアのモノづくりを比較出来ればと思います。