CADDi Tech Blog

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Rust についてカジュアル面談で頻繁に訊かれる質問と、それに対する個人的な回答

エンジニアリングマネージャーの村上 (@mura_mi) です。採用関連で面談に出ることが多いのですが、大体7割くらいの確率で 「なんで Rust 使ってるのですか?」「Rust 使っててどうですか」と聞かれるので先回りして書いておこうと思った記事です。

なんで Rust を選んだの

Rust をエンジニアリングチームの武器の中心に据える意思決定がされたのは私の入社前ですが、伝え聞いている話しと自分の解釈を混ぜ合わせた話を書きます。

データ指向アプリケーションを堅牢に作るのに必要な型システムを求めたこと」と、「キャディがもともと C++ の会社だったこと」の2つが、キャディが Rust を使っていることの背景にあったのだと理解しています。

後述しますが、キャディが 原価計算システムサプライチェーン・マネジメントシステム を Rust を使って開発しはじめたのは、2019年の中頃だったと伝え聞いています。これらのシステムは、「キャディがどんなものを、いくら費やして、どのように製作し、いくらで販売するか」という、キャディのビジネスの根幹となるデータを扱った データ指向アプリケーション です。

扱うデータの複雑さや、常に変化の可能性の下にあるビジネスルールに立ち向かう手段はいくつか考えられるでしょうが、データストアを担う物理層だけでなく、アプリケーション層でデータ形式の制限をすることは常套手段のひとつでしょう。 静的型付けのないプログラミング言語を否定するつもりは毛頭ありませんが、具体的な技術選定に口出しをしない CTO も、"テストをたくさん書くことに時間を使わず、型を書いてバリエーションを自明にしてラクをしよう" とは, しばしば口にします。

ではなぜ、そこで Rust なのか?選択肢に挙がった言語たちをなぜ見送ったのかの具体的な理由を記述することは割愛しますが、選択肢の中に Rust があった背景には、CADDi がもともと C++ の会社だったことが挙げられます。

「CADDi」という社名の由来のひとつには "CAD から Direct" という意味がありました。この記事の執筆時点では、キャディがお客様からいただく設計図の情報は二次元図面がほとんどですが、創業当初のキャディのビジネスの中心にはCADデータの自動解析アルゴリズムがありました。この頃 CAD データの解析に使っていたのが C++ で、江添亮さんには一時期テクニカルアドバイザーになってもらっていた事もありました

C++プログラマから見て、パフォーマンスを犠牲にせずに安全性を手に入れることができるのが Rust です。当時社内で Rust を推した一人である いなむさんのnote を読むと、少しだけ当時の雰囲気が垣間見えるかもしれません。

数多のテック企業が採用候補者を奪いあう戦国時代の中で、採用市場で「え、Rust を業務システムに使っているの?」でアテンションを惹けることは、キャディにとって良い副産物 でした。そもそも C++ と一口に言っても C++17 を 2018 年の段階で実戦投入したりしていた というのもあり、最新の技術を使っている組織だというイメージは強化されたのかなと思います。そういえば、筆者自身も「は?Rust でサービス作るの?」と釣り針に引っかかってカジュアル面談の話を聞きに行った一人でした。

Rust の用途とメリット

主に3つのエリアで使っていたり、使おうとしています。

1つは前述した、原価計算システムやサプライチェーン管理を行う「基幹システム」の開発です。 tonic (一部、まだ tower-grpc を使ってる部分もあります…😫 ) を用いて gRPC API サーバーを建てています。リレーショナルデータベースを接続してのデータ CRUD には、 diesel 上に構築した、データレコードの更新履歴も保存するフレームワークを独自に開発して利用しています。 ブラウザからユーザーがアクセスしたり、RDB のみならず Redis やメッセージキューなど多種多様なミドルウェアと接続されたシステムなので日々様々なトラブルは起きるのですが、Rust 自体が不明瞭な挙動を引き起こしたり、パフォーマンス劣化に悩まされる事象は見た記憶がありません。 (ビジネスルールの設計や実装に起因する問題だったり、データベースに異常な負荷を掛けてしまうケースが多い)

2つ目は、現在のキャディのビジネスの中心を流れる 「二次元図面」の解析を行うアルゴリズム の開発です。これに関しては、図面解析チーム (orama) のテックリードを務める寺田の記事 がとても良いので読んでほしい… のですが、Rust に関して彼の言っていることの抜粋が以下です。

Rust は目新しさがあるかもしれません。Rust は安全性とスピードを兼ね備えているので、パフォーマンスが求められるアルゴリズムの開発には本当に適していると実感しています。Python + OpenCV だけで賄えない理由は、ベクターデータの処理が必要になるからです。上で紹介した表の罫線認識では、まず画像をベクターデータに変換してから様々なアルゴリズムを組み込んでいます。ベクター化アルゴリズムを含めた各種のアルゴリズムの実装に、Rust が活躍しています

それ以外に、まだ実戦投入していませんが、WASM を用いたブラウザアプリケーションの開発に利用できないかとフロントエンドエンジニア陣が試行錯誤をしています。ブラウザ上で2次元図面のデータを表示したり、その図面への注記の追加をブラウザ上でできるようにする (社内では 図面版Figma と呼ばれていたりします) ようなアプリケーションの開発が視野にあるのですが、このようなアプリケーションの開発にはどうしてもパフォーマンスを追求したくなるケースが出てくると思っており、そのときに備えて様々な技術調査をしています。

Rust を仕事で使って、「頑張らないといけない」ところ

現場で Rust をこれからも使い続けていくに際し、組織的に頑張らないといけない点もいくつかあります。

まず思い当たるのが ビルドや CI に時間が掛かる点。開発者にパワフルなマシンを貸与するという "札束勝負" もしつつ、並行ビルドが効くような工夫 も頑張っています。

独特な書き味であったり、ライフタイム、所有権など他の言語では馴染みのない概念も多く、新規参入メンバーに各種知識のキャッチアップをしてもらうのはどうしても大変です。 しかし、私達のチームは「誰もが Rust のキャッチアップを頑張る道を通った経験がある」ことが強みであると思っていて、より一層「学習の高速道路」を整備しなきゃいけないなと思っています。

言語仕様や性質から来る制約という観点では、外部通信のような比較的大きい副作用が絡むテストに於いて テストダブルを差し込むことは可能なのですが、かなりの労力が必要になる印象を持っています。これは、Rust の場合コンパイル時に Dependency Injection される具体的なデータ型が指定されている必要があることに由来しています。 (キャディでは CakePattern を使った DI を実装しています) 同様の理由で、The Clean Architecture の「domain のレイヤをピュアに保つ」という方針を徹底しきれないな、と思うこともしばしばあります。

とはいえ、長所と短所 を天秤に乗せても、ビジネスの基幹となる情報システムを、硬く・速く動くようにするという意味では良い選択肢だと思っているので、もっとうまく使いたいと思っているところです。

キャディの人って元から Rust 書ける人ばっかりなんですか?

否。 入社前から Rust を経験していたメンバーもいますが、 「がっつりチームで Rust 使った開発してた!」「ウェブアプリケーションAPI サーバーを Rust で開発・運用していた」という人はいない はずです。皆それぞれのバックグラウンドをもって入社しています。先述したように、誰もがキャディに入社してから Rust 周辺についてキャッチアップをしてきた経験値を持っていることが、チームの強みなんじゃないかと思っています。

実際、 採用活動の中で候補者の方とお話する際には、Rust の経験があればもちろん良いのですが、それ以外にどういう経験してきたかを重視しています。サーバーサイドアプリケーションの開発をメインの領域とする自分からすると、しっかりとドメインモデリングに向き合ってきた経験や、他の言語で Clean Architecture をイチから書いたり、理解して使ってきた経験の方が重要だなーと思っています。

一方で、赤裸々なことを書くと、実際に社内の Rust のコードを読んでいても、API の設計をする際に参照と実態の区別をしっかりつけられていない (よって無用な .clone() の必要が生じる) ケースも結構見かけ、まだまだ Rustacean の集団として成熟しないといけないなぁと思うこともあります。

We're hiring

てなわけで、社内で書くコードが Rust オンリーというわけではないけど、キャディは「書きたい」と言えば十中八九 Rust を書ける環境だと思います。そんなCADDi の仲間になってくれる方を募集しています。「すぐ転職する感じじゃないんだけど Rust の話は聞きたい!」「Rust 書いたことないけど興味あります!」みたいな方でもお気軽にカジュアル面談からお申し込みください。

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